開発初期には,真空管はたいそう高価で,庶民には手が届かない電機部品でした.
しかし,米国系の球は,基本的に車と同じで,大量生産・大量消費,値段もそこそこといった
工業製品に対する基本方針が感じられます.
そのおかげで,一般大衆でも利用できるようになったことは確かです.
設定した耐用時間がくれば,無条件に交換!メンテナンスに関する技術力を不要として,
費用と時間の掛かる人間の関与を排除することが優先されました.
勿論,一部のプロ用の球はこの限りではありません.
専門のメンテナンス技術者を抱えられますので,長寿命化がなされたようです.
しかし,値段はとんでもなく高く,しかも,庶民には入手難です.
このような球は,ここでは除外しています.
球は1940年前後を境にして,直熱管から傍熱管へと変わりました.
多くの方は,古典直熱三極管(直線性がよい)を好まれますが,概してこれは高価です.
そこで,ここでは,比較的安価で,直線性が良いか,あるいは,聴感上で良い結果を得た,
球の中から,思いつくままに,一部をお勧めします.
MT管(1k〜2k円程度) :
5687
管名が示す通り,この球は高信頼管で,もとはオーディオ用では無く,
最初期のコンピュータ用に開発された一連の球の一つです.
内部抵抗が1.6kΩと低く,UX-45とほぼ同じです.
ヒーターは6.3v0.9A,12AX7 と同形状の MT 管のくせに,6V6 の倍も食います.
シングルで1w,pp で2〜3w の出力が見込めます.
無帰還で実用になる数少ない MT 出力管,負帰還無しで球の音が楽しめます.
コンピュータ用の球ですから,わざわざ整流管を使う必要はありませんが,
是非にもと整流管をと考えると,26Z5W くらいしか無く,かなり入手困難
6S4A
オーディオ用の MT 出力管はたくさんありますが,
不思議なことに,特性の良い球はほとんどと言っても良いほど見られません.
この球も,オーディオ用では無く,テレビの垂直偏向発振用です.
本来,直線性は求められない用途ですが,これがなかなか,どおして結構良いのです.
ヒーターは6.3v0.6A,形状は 9 Pin で,プレート損失は 8.5W,
最大プレート電圧・電流は 250v,24mA Eg が -8v とオーディオでも使いやすい規格です.
シングルで1.5w,pp で3〜4w の出力が見込めます.
GT管(2k〜3k円程度) :
6BX7 (6BL7)
テレビの垂直偏向発振に使われた球です.
大量に作り供給されてきましたので,国産管,米管を問わず,現在でも豊富にあります.
値段は供給量に反比例しますので,相当に安価で,2ユニットが1本に入っていますので,
極めて C/P は高く,1本で PP を組むことが出来ます.
垂直偏向発振用ですから,直線性ははっきり言って良くありません.
シングルで1.5〜2w,A級 pp で3〜5w,AB1級では 10W の出力が見込めます.
シングルでは負帰還が必要ですが,pp では無帰還も使用可能です.
6AC5
おそらく多くの方は浅野氏の魅惑の真空管アンプでの紹介で知られたと思います.
米国で普及型ラジオ,と言っても結構高価だったようですが,その出力管として,
簡単な構成で済むことから,かなり多く使われていたようです.
3極管ですが,多極管を内部3結としてある,高μ管です.
特性的には,3極管よりは多極管によく似ています.
シングルで4.5w,pp で8〜10w の出力が見込めます.
無帰還が基本,音質は好みにより評価が異なります.
周波数特性は高 rp のために,見事な「かまぼこ」型ですが,
聴感上はひずみ感はあまりありません.
6F6(三結)
米管初の多極管,UY-47 が基になり,傍熱化された球の言われています.
しかし,特性はかなり 47 とは異なります.
この一族は種類が多く,2A5,42,6F6(メタル),6F6GT,1613 等々,
かなりの同特性管が存在します.
シングル(3結)で 0.7〜1.5w,pp で3〜5w の出力が見込めます.
昔は,ラジオ球としてあまり高い評価は与えられていませんでしたが,
実際に音を聞いて見ますと,なかなかどうして,結構いい音を出します.
無帰還が基本,音質はオルソンアンプで定評がありますので,推して知るべしです.
Ip 特性はあまり見栄えが良くありませんが,音はかなりのものです.
42 の場合は,ロシア製以外は,ここに示した価格よりも多少高くなります.
ST管(1k円程度) :
1626
小型送信機・トランシーバの発振・変調に使われた送信管です.
純三極管で,外観は ST12 で見た目は最高で,ミニミニ 2A3 の風情です.
音質もやはり純三極管ですからそこそこで悪くありません.
しかも傍熱管ですから,初心者でも製作は容易で,製作上の失敗は少ないでしょう.
シングルで1w,pp で2〜3w の出力が見込めます.
難点はヒーターが 12.6v であることと,定格が発振用である点です.
プレート損失 5W を A 級で設定すると,定格オーバーとなってしまいます.
現在,プレート損失 4.5W で使っていますが,出来ればもう少し押さえた方が良いでしょう.
ただ,この規格で使って5年間,球の劣化はあまりなさそうです.
ST管(3k〜5k円程度) :
843
この球も,最古の米国出力管 UX-10 の後継で,発振・変調に使われた送信管です.
いわば,UX-10(VT25) の傍熱管で,ヒーターが2.5v,1.75A とされた球です.
プレート特性は,直線性の良さで知られた 10 譲りで申し分がありません.
しかも,10 の直熱 7.5v と異なり,ヒーターハムからは断然有利です.
シングルで1.6w,A2 で3w の出力が見込めます.
当然,無帰還で使うべきですが,難点は,負荷として,14kΩのインピーダンスを持つ
出力トランスが必要で,これはあまりにも高価です.
やむなく安価な 7kΩトランスの 4Ωタップに 8Ω SP をつないで誤魔化せば.
インダクタンスが不足して,低域が損なわれてしまいますが,やむを得ないかもしれません.
46(A 級)
元々はB級で使われる PA 用の増幅管で,4極管ですが,Dual Grid 3極管と称しています.
45 の ST14 に対し,ST16(2A3と同じ)で,堂々とした外観です.
ヒーターは 2.5v 1.75A プレート最大損失は 10W です.
浅野勇氏の記事より,A 級で使った場合,45 の代替えとして知られています.
A級 シングルで1.3w,pp で 3w の出力が見込めます.
出てくる音は RCA などの 2A3 に良く似ており,C/P の高い球です.
2A3
直熱三極管の代表として知られていますが,古典管は高価です.
ごく初期にのみ製造販売された1枚プレートの 2A3 は高音質ではありますが,
その価格は,とても普通の庶民には手が出せないほど高価です.
一般的なバイプレート古典管の音は柔らかくて暖かい音とよく称されていますが,
前段の球によっては,結構切れの良い音にもなります.
シングルで3.5w,pp で10〜15w の出力が見込めます.
ここに示しました価格では,ロシア・中国の再生産品になります.
販売利益が薄いためか,商社に荷担した評論家は Sovrek を非難する人がいますが,
300B に似た 1 枚プレートで音は申し分ありません.
47(三結)
米国で初めて開発された直熱五極出力管です.
直熱五極管で,傍熱発展型が 2A5(2.5v),42(6.3v) ですが,規格は多少異なります.
高効率高出力を目的に開発された球をわざわざ三結にしようとすることには無理があり,
メーカー発表の三結データはありません.後継の 2A5,42 にはあります.
しかし,やはり音質を追い求める人はいるもので,
実測 Ip 特性が Net 上で公開されています.
定格内で,シングルで0.7〜1.4 w の出力が見込めます.
何れの球も,ここしばらくは,供給には問題がないと思いますので,
メーカー推薦の動作基準の固執することなく,定格内での使用ならば
問題ないと思います.
特に,Sovrek 2A3 は,Eb:350v,Pout:7w での連続使用にも耐えるとも言われていますし,
プレートの大きさからも十分いけそうに見えます.
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