真空管雑感

WE 10V 傍熱管



































WE の多極出力管と言えば,真っ先に挙げられるのは,WE350B でしょう.
Westrex の劇場用アンプ WE124 に採用されたため,非常に有名です.
究極の劇場用アンプとも Western Electric では自称されていましたが,
名声としては 300B の WE91 が我が国では Top の座を得ているようです.
しかし,多極管の中では,最上位の球の一つに揚げられていると思います.

この WE350B の特徴は,厚いセラミックシーズに納められた,楕円型ヒーターで,
通電して 10数秒経たなければ動作せず,安定したプレート電流が流れ出すのは,
SW ON 後,十数分以上経ってからと言う使いにくい球です.

同じヒータ形状を持つ球として有名なのは,WE310A で 91型(300B Single) に採用された
電圧増幅管であります.そして,このヒーターは厄介なことに 10v です.

何故,ここで WE350B や WE310A を引き合いに出したかというと,
このヒーターには構造上からくる,曰く付きの伝説があるからです.
40 年以上前から,この構造のヒーターを持つ球は音が良いと言われてきました.
いわゆる Western Electric 伝説です.ただ,音は好みの問題もありますが・・.

また,独Siemens とともに,驚異的な長寿命・高安定性を誇る業務用専用管です.

有名,高評価,ヒーターは 6.3V となれば,350B を取り上げればよいのですが,
今や,並の直熱管をも凌駕するように高価で,とても手が出ません.

で,この高価な WE350B と同じヒーター構造を持つ,ミニパワー管があります.
WE311A,B や WE336A および WE349A などの類似管です.
いずれも,楕円形状のカソードで,分厚いセラミックシーズに入っています.
これらの球も,WE350B と同様に,安定動作は,ヒーター点火後,10数分を要します.
但し,WE349A を除けば,いずれもヒーター電圧が 10v ですので,
6.3v 球と比較すると使いづらい点は否めません.

WE311 には7.5V ヒーター管があり,WE336 には 6.3v の WE349A がありますが,
どちらも出て来る音はヒーター電圧に依るのか,あるいは,別の要因なのか解りませんが,
10v ヒーター管とは差があります.
音質判定は個人の感性ですから,どちらが良いとは言えません.
価格的には,圧倒的に 6.3v ヒーター管は高価です.

球の作り,価格と出てくる音の感想から,ミニ 350B としては,
311A,B と 336A と思っています.
出力からは,350B > 336A > 311A となり,さらにこれらより,
ミニミニ出力管が,ここで取り上げた WE293A です.

しかし,WE293A は,円筒ヒーターで,ヒーター構造を見る限り,米球では最も一般的形状です.
セラミックシーズは比較的薄く,安定動作にはさほど時間がかかりませんので便利です.
俗に言う所の,音楽を聴く 30 分前に電源を入れる,WE らしさには欠ける恨みがあります.
ただ,音は WE の音と同系統とのことです.ちょっと曖昧な表現です.
     実はこの球だけ音を聞いたことがありません.
しかし,配線はシングルエンド,Top Grid ではないと言う,311 と比較してすばらしさがあります.

写真をご覧になって頂ければ,お解りと思いますが,左から,336A, 311B, 293A です.
336A と 311B はガラスチューブとしてはまったく同じで,311B には Top Grid があるだけです.
細身で,76 などの ST12 と同じですが,若干背が高いようです.
最も出力の小さい,293A が少々背の低い ST14 で,最も形状としては大きくなっています.

これらの球は,プレートがすべて初期型の 350B と同じ黒色のカーボンスートです.
時代とともに,350B のプレートは,グレーに変わりましたので,
まさに,初期の350B と同じ材質を保持している 350B 直系でしょう.

ご存じの方が多いと思いますが,一応球の大きさを示します.いずれも 5 極管の出力です.
   WE336A : H : 10v 0.64A, プレート損失 12W, 出力 : 3.5W
   WE311B : H : 10v 0.64A, プレート損失  9W, 出力 : 2.5W
   WE293A : H : 10v 0.32A, プレート損失  5W, 出力 : 1.2W
3結にしても,いずれの球も 1W 前後の出力が望めますので,当研究所では十分です.

これらの,ミニ 350B を使おうとすると,10v 1.3A 以上のヒーター回路を持つ
電源トランスが必要になってきます.
ところが,このような回路を持つ電源トランスは,多くが 300B による 91A 用です.
つまり,大型で,かなり高価な電源トランスになってしまいます.
91A 用電源トランスは中古でも高価で,我々貧乏人にはなかなか手が出ません.

しかし,昭和 30 年代まで電電公社や NHK で多用された,
和製 WE として知られている CZ501D, 504D はヒーターを
直列にすると, 9v 1A になり,1Ω の抵抗を経由して 10v タップから供給していましたので,
10v のヒーター回路を持つ払い下げトランスがかなりの数であります.
慌てずに待っていれば,厳重な防磁ケースに入った立派な電源トランスが
時々オークションやジャンク屋に出てきます.
これが狙い目です! 価格もせいぜい2〜3000円程度と思います.

余談ですが,CZ501 は WE310A に,CZ504 は WE336A や WE349A 類似と言われています.
所謂,通信管であり,長寿命管で,国内では比較的大量に且つ安く出回っています.
よく,CZ501 は 6C6, CZ504 は UZ42 と同等に扱う向きもありますが,
実際には,特性的にも,電極構造からも,全く異質な球です.

また,6.3v と 6.3v センタータップ付きの回路を持つ電源トランスがあれば,
9.5v がとれますので,10v のヒーターの許容範囲内(9.5V〜10.5V)となります.
しかし,そこまで苦労してこのような Amp を作る必要があるのかは,考えどころです.

そう言えば,劇場にあった Westrex の Amp から抜き取った WE350B も棚に並んだままです.
無料で貰ってきた球であることもあって,ここには 350B を省いたのですが,
ウーーン,タダで WE350B を手に入れたのがいけなかったかな,と反省(してません,本当は).
昔は廃業する劇場アンプの球は,欲しけりゃ持ってけ,の時代でした.

336A, 311B, 293A で最も高価だったのは,最後に入手した 293A で \4500/本 でした.
もしも,これらが現在のように高価だったら,果たして購入したかどうか解りません.

10Vヒーター回路を持つ電源トランスも既に入手済みですから,
やはり,何時かは作ることになりそうです.




真空管雑感 出力管編へ



真空管雑感へ

ホームへ