「オーディオ雑誌」の項にも書きましたが,最近は何かおかしな球が紹介され
ることが数多く見られます.
我ら年寄りが若き時代にあこがれたオーディオ用の名球は,
45,71A,10,801などの米球と,PX4,PX25,DA30,RE604などの欧州管でした.
また,憧れてはいましたが,高嶺の花であった,WE300B,WE350B,WE-VT52,WE336Aもありました.
WEの多極管を除けば,これらの球は,特性的に申し分のない球です.
今日でも名球として通用するし,異存を唱える方もありますまい.
これ以外の球に関する評価は,百花斉放・百家争鳴,誠に賑やかですが,
アマチュアに好まれた名球は,基本的には古典三極管と業務用オーディオに
使われたWestern Electric の球でしょう.
その他の球に関する団塊世代の評価は,概ね以下のようなものでした.
845, 211 は,姿のみならず電源においても,その巨大さから手がなかなか出ません.
我が研究所顧問が製作した,RS237 および 211 アンプは,度肝を抜かれる音,
スピーカの口径が倍になったと聴き紛うような音が出ていたことが鮮烈に
記憶に残っています.
6CA7(EL34) の無帰還三結プッシュプルアンプは,安定性・保守性,音質ともに申し分なく,
多極管を用いたアンプのエース的な存在でした.
一方,
UX-50 は浅野氏が好まれた球ですが,トランス結合かロフチン以外では使い物にならず,
姿の大きさは貫禄があるものの,グリッド電流の流れやすい球として敬遠されていました.
2A3 は最後の古典直熱三極管としてもて囃されてはいましたが,「音がぼける」という
芳しくない評価がされていました.
このあたりまでが,オーディオ管として認知されていたように思います.
次に続く球は,電蓄用,多分に安物トライアンプ(オールin1セットもの)用として,
音質は低く見られていました.
6GA4, 6RA8, 6(50)CA10 などや 6L6, 6V6, 6F6 および類似管などです.
これらは,基本的には負帰還を施すことにより実用的音質になるといわれていました.
例外的に,オルソン・アンプとして名高い,無帰還の 6F6 の三結プッシュプルと,
ウイリアムソン・アンプである KT66 の高帰還三結プッシュプルのみは別格でした.
また,当時,駄球とされていた球もありました.
これらは,オーディオ用ではなくラジオ用として考えられていた球です.
6BQ5, 6AR5, 6BM8 およびその類似管です.いかに多くの負帰還をかけるかが,
アンプの成否につながるとされていました.
さて,現在,もて囃されている,送信管アンプはどうでしょうか.
製作者のせいではないと思いますが,デモ機を聴いた感じでは,きらびやかで,
豪快な音のように聞こえます.
しかし,よくよく聴いてみると,きらびやか=歪みっぽい,豪快=ブーミー・・・
どこかで聴いたことのある音だな.
で,よくよく聴いていると,ハタと手を打ちました.
裸のペントードです.47 の無帰還五結とそっくりです.
実は,巷の噂に惑わされ,送信管アンプを造ろうと考えましたが,高圧むき出しの
アンプ,つまりトッププレート,は危険すぎて実用になりません.
そこで,0バイアスで使用ができるSV811A-10 を購入しました.
しかし,くだんの送信管アンプの音を聴いて,製作意欲が萎えてしまいました.
SV811A-10 は-40v のバイアスを掛け,純A級でも使えますが,それならば
何もわざわざ使いづらい球を持ち出すまでもありません.
一部の再生産品を除き,30 年以上前に製造中止された真空管は,世界中で入手難に
なってきました.
これから真空管アンプを造ってみようと思われている方は,慎重に球を選ばれた方が
宜しいかと思います.昔,駄球と言われた球でも,負帰還を施せば実用になります.
それが,オーバーオールであれ,カソード局部であれ,問題はありません.
そして,NF は NF であり,出てくる音は同一傾向です.
昨今の真空管ブームのためもありますが,とてもオーディオ用にはならない球が,
かなり輸入・販売されているようです.
先の駄球よりも,さらにひどい球が巷に出回っています.製作例も出ています.
一般的には安価ですので,経済的な被害はそれほどひどくはないと思いますが,
せっかく,オーディオに興味を持って頂けた仲間が,このことによって
離れていくことが残念です.
さて,音楽
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