日本のオーディオ愛好家で,このスピーカを知らない人はまずはないと思います. その口径,6.5 インチにちなみ,六半の名前で親しまれてきました. その昔,所長は,当研究所顧問の M 取締役に,何!持ってないの? と言われて慌てて購入に走りました. 外観はというと,これはとても名器とは思えません. ペコペコのブリキ板のごとき薄い鉄板をプレスしたフレームに, ボール紙のガスケット,コルゲーションの入った曲面コーン紙, どこから観ても外観はラジオ用です. こんな安っぽいスピーカからまともな音が出るんかいな? と思ってしまいますが,音を聞くと,えェ!!と脅かされます. このスピーカ,出自を聞くと, その血筋の良さに音も納得!. NHK が三菱と共同で開発したもので, 円盤再生機やテープデッキのモニター用です. そうです,あの 2S-305 に代表される, NHK モニターの末っ子です. 音に色付けがなく,見事なまでに フラットな再生周波数帯域と言い, まさにモニターそのものです!!! しかも,単体フルレンジで,です. M取締役のP619Aの写真より 同じ BTS 規格に合格した,六半にはパイオニアの PE-16 がありましたが, 低域から高域までのバランスでは,P610A の方が上と思います. 無論,PE-16 もBTS 規格に合格し,今や貴重な名器です. これらに匹敵するユニットは,世界中を探しても,そうおいそれとはありません. P610 の指定箱は,40リットルほどのバスレフか,60 リットル程度の密閉です. モニター箱は,2 種類が有名で,20 リットル程度のバスレフ箱 (正面が正方形に近く,円盤再生機やテープデッキのモニターに使用)と, 2S-305 補助用のモニター・バスレフです. 後者の箱は,まさにミニ 2S-305 で,前面横の縁が大きな R を持つ形状です. この箱で聞くと,とても 16cm フルレンジ 1 発とは思えぬ音であると言われています. ただ,この設計図は一般には入手不可能でしょう. ところが,如何にして入手したかは別として,当研究所顧問の F 教授が持って居られます. 現在,当研究所では,この設計図に従ってミニモニターを作ろうとしています. SP 単体ユニットの規格では,65〜18kHz,能率 91dB/w-m です. 三菱指定バスレフに入れると,再生周波数は,40-18kHz,能率は 93 dB /w-m です. 案外,帯域が狭いように見えますが,一般の,特に輸入品などと比較すると, 驚くほど特性は立派です.この周波数帯域は-5dB程度に収まっています. 輸入品などは,低域では -10dB 迄再生可能周波数帯域に入れているモノまであります. これでは出るかもしれませんが,余程大きな音量にしないと実際には聞こえません. 小口径スピーカの高域の能率を下げて,一見フラットな特性とした, 現代版高級スピーカのごとく,どろどろした抜けの悪い低域とは違い, スカッとした抜けの良い音で,ほどよい音量でも十分なバランスです. まぁ,これら,いわゆる現代版高級スピーカ?とは一線を画すユニットでしょう. 6畳程度の部屋で使用するとすると,出力 0.5w のミニアンプでも十分に実用になります. このスピーカのバリエーションは, P610A :BTS規格,特性表付き,16Ω, アルニコ・マグネット,発砲ウレタンエッジ P610AJ:A同等, 特性表無し,16Ω, アルニコ・マグネット,発砲ウレタンエッジ P610B :A同等, 特性表無し, 8Ω, アルニコ・マグネット,発砲ウレタンエッジ P610DA:A同等, 特性表無し,16Ω, アルニコ・マグネット,ウレタンエッジ P610DB:B同等, 特性表無し, 8Ω, アルニコ・マグネット,ウレタンエッジ P610FA:A同等, 特性表無し,16Ω,フェライト・マグネット,ウレタンエッジ P610FB:B同等, 特性表無し, 8Ω,フェライト・マグネット,ウレタンエッジ P610MA:A同等, 特性表無し,16Ω, アルニコ・マグネット,ウレタンエッジ P610MB:B同等, 特性表無し, 8Ω, アルニコ・マグネット,ウレタンエッジ 最も人気のあるのは,当然の事ながら P610A です. 極めて残念なことに,この SP も生産中止です. もはや再生産することは出来ないとの,M 取締役の情報です. つまり,中古しか入手方法がないと言うことです. 最終販売価格は,\9000 〜\10000 程度であったと思います. 所長が入手したときは,\2600 でした. また,このスピーカを用いたシステムが Kit として過去に 2 回発売されました. 最初は,1発バスレフと,2発+TW503 のバックロードホーンの 2 種です. いずれも,一般には入手できない音響用のランバー・コア合板で作られたシステムです. SP は 付属せず,好みと用途により別途購入するシステムで,P610AJ,B 用でした. もう 1 種が,KB610 です.こちらは現在でも時々中古が売りに出ます. 三菱の指定箱よりも小さく,設置は非常に楽です. 値段は\30000〜\50000程度で,ユニットは P610DA or DB です. オーディオ愛好家のスピーカは,六半に始まり六半に終わる,と言われるほど, 多くの方が認める,まさに名器ですが,どうにもならない欠点もあります. まず第一は,エッジです. 10 年,余程運が良くても 15 年でエッジはぼろぼろです. どうしても張り替えなくてはなりません. 最も良いのは,厚さ 1mm〜2mm の発砲ウレタンですが,クラフトショップに行っても 余程運が良くなければ入手できません. 包装用の汎用品ですが,なぜか取り扱っている店はあまりありません. この発砲ウレタン板は,クラフトショップに頼んでおくと,時々入手が可能です. 値段は,極めて安価ですが,購入量は多くなります. DA と同じウレタンエッジは取り扱っているオーディオ店もありますが, やはり少々硬いようです.なければこれで我慢するしかありません. また,不織布やネルの布,無論セーム皮も良いとのことです. ぼろぼろエッジの中古ユニットは,\2000〜\3000で入手可能です. 張り替える価値は十分にあります. 新品かそれに近い P610DA は \10000 以上するようです. もう一つの欠点は,出てくる音があまりにも正直である点です. 高域発振したり,3次歪みの多いアンプでは聞くに堪えません. NF を掛けて誤魔化しても,やはり元の音質が「ちょろちょろ」と出てきます. 悲しいことに,下手な演奏も如実に現れます.(SP の音色でカバーをしてはくれません) 音質は二の次にして,純粋に「音楽のみ」を楽しむには不向きかもしれません. そうは言っても,やはり手元に 1set は置いておきたいスピーカです.