米欧の直熱三極出力管の横綱対決です。
米国を代表する直熱三極管と言えば,WE300B と言ってもどなたも依存は
無いのではないでしょうか.
Western Electric が,ATT と米軍に通信用として供給するために開発した球で,
その一部が劇場用の出力管に流用されたので,きわめて有名になりました.
1980 年代まで一般に市販されなかったため,入手するには,
米軍の払い下げに頼る以外にはありませんでした.
再建されたWestern Electric によって,$450/本 で市販されましたので,
それ以降は比較的簡単に入手できるようになりました.
音質には定評があり,まさに王者の風格も感じさせます.
狂信的なマニアも多数いて,まさにこれ以外は「ダメ」とまで言う人もいます.
試聴に用いた球は,F 名誉教授が30数年前に入手した WE 再生産品ではありません.
参考に欧州版 300B である ITT-300B を提示し、試聴も行いました。
ヒータ電流を含めて WE300B と同じに 英国 ITT で造られた球です.
同様に、国産の 300B もあります.
岡谷電機が素材に至るまで分析を行い,初期の WE 自身の生産品と全く同じに造った,
と言われ,本物(後期生産品)より本物らしいと言われています.
ただし,ほとんど実物が無く,今回は試聴できませんでした.
巷で,300B は多くの国で,しかも大量に造られていますが,多くの球は,
ヒーター電流を大きくすることで,必要なエミッションを得ている場合も見られ,
WE300B と似たプレート特性となってはいますが,明らかに,WE300B とは異質な球と,
言わざるを得ないと言えます.
ただ,300B と言う名前で,売らんがな,との思惑で造られたものですから,
これらは対象外とします.
一方,欧州の代表と言うことで探すと,ここはやはり,同じ通信管である,
Ed と言うことになると思います.
英国には,PX25 の系列があり,音質についても定評がありますが,
これらは基本的に一般市販用の球ですので,ここでは,「格?」の点で次回にします.
Ed は Siemens とValvo などが代表的なメーカーのようです.
プレート損失は WE300B の方が上回りますが,実際のオペレーションは,ほぼ同じ程度です.
入手はかなり難しく,例え,あってもその価格は絶望的に高価です.
たまたま, F 教授が所有していたおかげで,この対決が実現しました.
初段管として,C3g(T)を,整流管は 5X3を用いました.
試聴結果です.
WE300B :確かに,音質で文句を付けるところはありません.
キレもあり,爽やかですが,柔らかさも持ち合わせています.所謂 WE Sound です.
すばらしい・・・,が何か物足りない?
何がと言われても,わかりません,しかし,何となく優等生すぎてつまらない.
なんと,贅沢なと思いますが,聴いた感じを正直に表すとこうなります.
ITT300B :全くと言っても良いほど WE300B と同じです.
球を見なければ,音だけではたぶん判別がつきません.
Ed :綺麗,とにかく綺麗,音の粒だちがはっきりとする.
そしてきつくない.この手の音は,ともすれば疲れる音になる場合がありますが,
全くきつさは感じさせません.何よりも,聴いていて楽しい! 音に包まれる感じです.
もしも,WE300B と Ed のどちらかを選ぶとすると,文句なく Ed です.
今回の試聴で,軍配は Ed にあげましたが,今となっては入手の望みはほとんどありませんので,
まぁ,絵に描いた餅にすぎませんが,一度でも聴けただけ良かった言うべきかもしれません.
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